必要なものは理想ではなく行動規範だ。 -永沢さんー =ノルウェイの森= 村上春樹

ノルウェイの森を初めて読んだのは高校生の頃だった。学年は定かではない。

あの時の感想はあまりいいものではない。

 

ー官能小説?

ー中身がない。

ーつまらないなー。

 

恐らくこんなことしか思っていなかった。

念のために言っておくと、決して官能小説ではないし、中身はとてもあり、とても面白い小説だ。

ただ、高校生の僕に理解できる本ではなかった。やたらと性的表現があるように見受けられた、他、やたらと登場人物が自殺してしまう。とてもじゃないが高校生の僕が視認できるサイズではない性と死がこの小説にはあった。

ワタナベが大学生の頃には、キヅキは自殺していて、物語の後半で直子も自殺した。

突撃隊は消えていなくなり、ハツミさんは数年後、手首を切った。緑の父は病死。

直子の姉は物語が始まった時点で命を落としていて、親戚にも死者がいる。

これほどの死に囲まれる人間もいないだろう。

これほどの死に共感は生まれないという人が多数だろう。

そして、高校生の僕はこの小説から何も得ることができない人間だった。

 

ここ一二週間でノルウェイの森をふと気になって読み返してみた。

するとどうだろう、まったく今までとは違う感想が生まれてきた。

いろいろな感想が生まれたが中でも、題した通り「永沢さん」に僕はひどく心を奪われた。

高校生の頃も永沢さんの

自分に同情するな。自分に同情するのは下劣な人間のやることだ。」

 

 

には、確かにそうだな、と納得してこの言葉は素晴らしいと思っていた。

けれど、今回は、

人生にはそんなもの必要ないんだ。

必要なものは理想ではなく行動規範だ。

この言葉に僕はしてやられた。システムなんてどうでもいいとハツミさんに怒られてしまう程、システムの中に生きている永沢さんらしい、言葉。

どうしてこの言葉にしてやられたのかを考えてみると、すぐに合点がいった。

 

 

僕は一時期HIPHOPに嵌っていた。

その時によく聞いていた曲にZONE THE DARKNESS(現:ZORN

の「奮えて眠れ」がある。

この曲の一節にあるlyricがある。

成功が努力よりも先なのは辞書だけだ、

保証もないものに一生を賭けな。
それでもその扉が開くとは限らない。

だが夢も見れないような男には先はない。

 

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しかし、どうだろう。もう僕には夢なんてものはない。

保証のないものに一生を賭けなと言われても、今では何にBETすればいいのかがわからない。以前は音楽で生きていきたいと思っていたこともあった。だからこの歌詞が強く僕に響き、いつの間にか僕の中に入り込んでいた。

けれど僕が夢を夢で終わらせようと思った時、それは過飲してしまった薬のように僕を苦しめた。どれだけ体をよくするための薬でも飲み過ぎてしまえば、体にとって毒になってしまう。幸か不幸か僕は男だった。「男だから」というジェンダーに僕は捕らわれていないし、気にするつもりもないが、「夢も見れないような男には先はない」は僕の頭の片隅に残っていた。

 

そして、そんな時にノルウェイの森を読んだ。

そして、永沢さんの言葉が胸に刺さった。

そして、その時に気づいた。

 

僕は、意味もなく存命している哲学的ゾンビともいえる存在。

BUMP OF CHICKEN風に言うとthe living dead(生きた屍)。

そう、今の僕に理想はなく、目的もない。

 

僕は自分には希望も理想もない。だから痛くこの言葉が響いた。

ノルウェイの森はこれから何度も読むことになるだろう。

ワタナベのパーソナリティに嫌なくらいに共感できるようになってしまった。

永沢さんに一種の憧れのようなものを抱いてしまった。

僕はワタナベのように虚空の中で生きていくかもしれない。

僕は永沢さんのようにシステムの中でいきていくのかもしれない。

 

理想も希望もただの死後。でも、そいつに期待しバカを見よう。

 

僕はバカを見ることから逃げ出した。

 

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